大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 昭和40年(手ワ)88号 判決

主文

被告は、原告に対して、金一八二万円及びこれに対する昭和四〇年八月一一日から支払ずみまで年六分の金銭の支払をせよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告が金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告―主文第一・二項と同趣旨。

二、被告―原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。

(原告の請求原因)

一、被告は、昭和四〇年五月二五日、三栄電機株式会社に宛てて、金額二〇〇万円、満期同年七月三一日、支払地振出地ともに松山市、支払場所株式会社阿波銀行松山支店の約束手形一通を振出した。

二、右手形は、三栄電機株式会社から土井昭雄に、土井昭雄から原告に順次裏書譲渡され、原告が現にこれを所持している。

三、原告は、満期に支払場所において右手形を呈示して支払を求めたが、支払を拒絶された。

四、原告は、昭和四〇年八月一〇日、被告から右手形金内金一八万円の支払を受けたので、被告に対して、残金一八二万円とこれに対する同年同月一一日から支払ずみまで年六分の損害金の支払を求める。

五、なお、被告の抗弁事実中、その主張のような内容証明郵便による意思表示があつたことは認めるが、その余は全部否認する。

(被告の答弁及び抗弁)

一、請求原因第一項から第三項を認める。

二、

(一)  本件約束手形は、被告が訴外愛媛トラスト名刺株式会社(旧商号三栄電機株式会社)の要請によつて振出した融通手形である。原告と右訴外会社との間には特約があり、原告が右訴外会社に特約店一六店を譲り渡し、右訴外会社の営業の目安がたつてから本件手形の支払を求めることになつている。被告と右訴外会社との間にも本件手形裏書について右と同一の特約があつた。原告は右訴外会社と特約をした当事者であるから、この事情は知悉していなければならない。現在に至るまで原告は、右訴外会社に対して特約店一店しか譲渡していない。原告は、当然この特約を了知の上で手形裏書譲渡を受けて手形所有者となつた悪意の取得者であるから、被告は原告に対して本件約束手形支払義務はない。

(二)  原告は、訴外会社と特許使用権分権契約を結ぶに当つて、特約店一六店を昭和四〇年七月三一日を目安として獲得し、これを右訴外会社に譲渡することを約束したに拘らず、これを履行しないから、右訴外会社は、原告のこの債務不履行を原因として、昭和四一年一月二〇日付内容証明配達証明書留郵便物をもつて、右契約解除の意思表示をした。よつて右の被告の主張が排斥されるべきものと仮定しても、右契約の解除によつて右契約は当初からは存在しなかつたことになるから、原告は本件手形を右訴外会社へ返還すべきものであり、たとえこれを不法に所持行使していても、被告は原告に対して本件手形の支払義務は存在しない。

(三)  仮りに、右の如き被告の主張が容れられないと仮定しても、原告は、右訴外会社に対して営業として成算の疑わしいトラスト名刺の特許使用権をあたかも営業価値あるかの如く宣伝欺罔して、その分権の代価として本件手形を含めて金四〇〇万円を得たものである。大資本を擁する企業が巨額の宣伝費と機構を動員してトラスト名刺利用の風習を築き上げた後ならば、或は営業価値も生ずるであろう。現段階に於いてトラスト名刺取扱による超過収益力は認められない。いわんや中小企業が金四〇〇万円の分権代を一時に支払つて、その上で経営を維持すること自体が問題である。しかも、原告は右訴外会社営業に対して自ら約束した中の最少限度の援助すらも行わず、自己の利益ばかりを主張している。殊に「特許使用権分権に関する契約書」第五項に至つては、原告は明らかに分権料を合法的に詐取せんとする意図を有するものと断ぜざるを得ない。よつて、正当な手形の所持人でない原告の請求に対して支払に応ずることは出来ない。

(証拠関係)(省略)

理由

原告の請求原因は、被告の認めるところであり、被告の抗弁については立証が十分でない。

そうすれば、原告は、被告に対して、本件手形金から原告の自認する入金を控除した残額一八二万円と、これに対する呈示の後である昭和四〇年八月一一日から支払ずみまで年六分の損害金を求めることができる。

よつて、原告の請求を認容し、民事訴訟法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例